パリコレで活躍する日本人トップデザイナー初の書き下ろし。
「服は言葉を発することができない」「ファッションデザイナーは服の代わりに、服のことを伝えようとする」「テーマとコンセプトが服づくりの根幹」。そう言い切る著者の発想の源泉を明かす力作。ファッションで「世界と自分」を変えたいと願う人へのヒントと励ましがここにある。
森永邦彦氏の新書新刊書き下ろし『AとZ―アンリアレイジのファッション』を装丁したのはデザイナーの三浦正已さん(62)です。精文堂印刷のデザイン室に在籍し、本書がちょうど1000冊目の担当となりました。インパクトのあるカバーと帯について、三浦さんに編集部が聞きました。
――『AとZ』のタイトルは新書史上「最単」、つまり最もシンプルだと言われています。シンプルであるが故の難しさや苦労はあったのでしょうか。
三浦 碁盤は宇宙だと言われます。狭い碁盤に無限の宇宙が広がっていると。私は本のカバーも表紙も、基盤と同じだと考えています。限りある紙面に宇宙が広がっている。その宇宙にどんな意匠がふさわしいか。大切にしているのは、著者に喜んでいただけるデザインです。著者のことを考えることで、宇宙は可能性を秘めてくると私は思っています。
――アルファベットの「A」「Z」。それをつなぐ、ひらがなの「と」。文字のバランスを保つのにどんな工夫を凝らしたのですか。
三浦 アルファベットの「A」「Z」はシャープです。切れ味鋭い感じが漂う文字です。だからこそ、「A」と「Z」の文字をつなぐとき、柔らかい感じを出せないかと考えました。鋭い+柔らかい+鋭い、という組み合わせにすることで、宇宙をさらに豊かにしたいと考えたわけです。鋭い+鋭い+鋭い、も、柔らかい+柔らかい+柔らかい、もどちらも面白くありません。
――アルファベットの「A」「Z」に比べて、ひらがなの「と」がとても小さく表現されています。
三浦 気がつかれましたか。「と」を小さくすることで、「A」「Z」が目立ち浮き上がってきます。その一方で、何事も包み込む柔らかい「ひらがなの力」で、余分なアルファベットの角が取れる。「と」を最大限に生かすことで、鋭い世界と柔らかい世界が共存します。それは著者の森永邦彦さんが求めているものに少しは通じるのではないかと考えています。
――カバーではメインタイトルの「AとZ」、サブタイトルの「アンリアレイジのファッション」、著者名の「森永邦彦」の三つの配置が絶妙です。
三浦 何かと何かをつなげるものは、優しいものがいいです。この三つをつなげるものは何だと思いますか。実は余白です。早稲田新書では「余紅(よこう)」とでも言うのでしょうか。余白、余紅の美しさ、魅力を引き出せるかどうか。それをいつまでも私は大切にしたいと思っています。(文責・俊)
ファッションデザイナー。1980年生まれ。東京都出身。早稲田大学社会科学部卒業。大学在学中にバンタンデザイン研究所に通い服づくりを始める。2003年、ブランド「ANREALAGE(アンリアレイジ)」を設立。05年に米ニューヨークの新人デザイナーコンテスト「GENART 2005」でアバンギャルド大賞を受賞。同年、東京タワー大展望台で06年春夏コレクションを開催。11年、第29回毎日ファッション大賞新人賞・資生堂奨励賞受賞。14年9 月、東京コレクションから転じ、パリコレ公式デビュー。以来、年2 回のペースでパリコレに公式参加する。19年、第37回毎日ファッション大賞受賞。著書に『A LIGHT UN LIGHT』(ANREALAGE 著・奥山由之写真、パルコエンタテインメント事業部)。
はじめに
第一章 東京タワー
第二章 予備校
第三章 アンリアレイジ命名
第四章 神は細部に宿る
第五章 AとZを重ねる
第六章 パリコレクション
第七章 発想のヒント
第八章 色とかたちの非日常
第九章 自然と共生するテクノロジー
第十章 コロナ時代のファッション
あとがき