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幸福な家庭と理想的世界を結び付け、夢見たレフ・トルストイ。その生涯は、幼い頃死別した母をはじめ、多くの女性たちによって彩られていた。女性たちとの体験は、『戦争と平和』『アンナ・カレーニナ』『見知らぬひと』など数々の名作にどのように反映されているのだろうか。
「女性」はトルストイの博愛主義の原点といえるが、これまでトルストイの女性遍歴はタブー視されてきた。このタブーに果敢に挑み、名作の新たな解釈を試みた画期的研究。
1960年,山形県に生まれる。1995年,早稲田大学大学院文学研究科博士課程退学。現在,モスクワ大学付属アジア・アフリカ諸国大学日本語科上級講師(専任)。専門は,トルストイを中心とする19世紀ロシア文学。「前期レフ・トルストイの生活と創作――作家の「内なる女性像」から生じた問題とその解決を中心に」で,2016年に早稲田大学から論文提出により博士(文学)取得。
著書に,『選文読本――日本語参考書』(リュボーフィ・オフチンニコワと共著,モスクワ大学出版,2012年),藤沼貴『トルストイと生きる』(共編著,春風社,2013年),ロシアで刊行されたトルストイ事典,『レフ・トルストイと同時代人』(パラード出版,2008年),『事典レフ・ニコラエヴィチ・トルストイ』(プロスヴェシェーニエ出版,2009年)への項目執筆多数,などがある。
序論
1 アプローチと仮説
2 先行研究
3 トルストイの主要な評伝について
第1部 カフカス
第1章 『幼年時代』における終生のテーマ――母の愛と魂の不滅を確信するが,いかに生きるべきかはわからない……
1 『幼年時代』の不滅の「歌」
2 「思い出に似たあるもの」
3 一つの予感
4 ママンという「歌」の特異な性格
5 『幼年時代』の創作過程とママン像の変遷
6 ウサーヂバとしてのヤースナヤ・ポリャーナ
7 トルストイの本当の生い立ちは
第2章 創作開始にいたるまでの試行錯誤
1 大学時代――「実験」の開始
2 帰郷からカフカス行きまで――創作という新たな「実験室」
第3章 初期創作の到達点と限界点
1 『襲撃』――真の勇気とは
2 『森を刈る』――兵士のキリスト
3 カフカスの高みとは
第4章 「女」と現実の不条理にぶつかる
1 理想の女性像
2 袋小路
第5章 現実そのものを変える――農業経営と教育活動と恋愛
1 トルストイの農奴解放の試み――地主と農民の再生を目指すも挫折
2 教育活動――子供の生命の発見
3 農婦の愛人――アクシーニャ・バズイキナ
第1部のまとめ
第2部 1812年と『戦争と平和』
第6章 1812年――祖国戦争の真実と夢
1 史実とかけ離れた『戦争と平和』
2 祖国戦争の真相
3 「大きな愛」による神話化
第7章 『戦争と平和』論――夢と夢の出会い,そして生命の誕生
1 『戦争と平和』における生命の秘密とは――「水滴でできた地球儀」
2 物理的世界を超える水滴
第8章 「作者の逸脱」と視点の問題
1 「概括」と「細かさ」のジレンマ
2 「概括」と「細かさ」とはなにか
3 『戦争と平和』のジレンマ
4 作者の絶えざる逸脱
5 先行研究の問題点
6 主人公ピエールにおける多次元的統一
7 概括と細部の融合――細部に宿る神
8 「細かさ」の消滅
9 「細かさ」のないルポ
10 文学からの逸脱
第2部の結びにかえて――ヴィクトル・シクロフスキー『『戦争と平和』の素材と文体』
第3部 『アンナ・カレーニナ』
第9章 明から暗への転換の背景
1 トルストイは「殺人者」か――二つの悲恋に関する藤沼貴氏の未発表の説
2 兄セルゲイと義妹タチアーナの恋,そして彼女の自殺未遂
3 妹マリアの不倫の恋――トルストイは義弟を死に追いやった?
4 「アルザマスの一夜」と,もう一人のアンナの鉄道自殺
第10章 後期トルストイの誕生
1 「女性的なるもの」を殺し,葬る
2 カレーニンについて――トルストイのもう一つの自画像
3 19世紀ロシアの離婚事情について
4 アンナが乗った鉄道――トルストイが女性性を葬った場所
5 28という数字――アンナ・カレーニナとトルストイの宿命
第11章 『見知らぬ人』はアンナ・カレーニナか――レフ・トルストイと画家イヴァン・クラムスコイ
1 モデルはだれか
2 20世紀になってエチュードを発見
3 あまり検討されてこなかった文学起源説
4 クラムスコイとトルストイの出会い
5 クラムスコイの生い立ちと経歴――画家は語る
6 絵画は単なる絵画にあらず
7 『アンナ・カレーニナ』を地で行く三角関係
8 『アンナ・カレーニナ』にも痕跡
9 1883年という年
10 『見知らぬ人』とアンナ・カレーニナ
11 赤と黒
12 流行の先端を行く装い
13 謎を解く鍵は絵の背景に
14 運命の日
15 二つのテーマ――アンナに自分を見る
結論
1 本書のコンセプトとオリジナリティー
2 トルストイの見た目の奇矯さに躓くなかれ
3 まとめ――幼年時代の光と闇を食い尽くす
あとがき
文 献
索 引
英文要旨