「喪失」という主題をめぐる
サミュエル・テイラー・コウルリッジの思想を同様の問題意識によって動かされていたユングやティリッヒと比較対照しながら検討する
アダムとエバのエデンからの追放という神話に見られる喪失の意識は、歴史の最も早い段階から、キリスト教世界だけでなく全人類に普遍的に見られる現象であり、人間のさまざまな活動はすべて、失われた楽園を回復しようとする、意識的無意識的な努力と何らかの仕方で関っていると見ることができる。コウルリッジはこのことを最も痛切に意識していた思想家の一人であり、彼の著作はすべてこの問題を中心に展開している。同じことはユングとティリッヒについても言われる。この三人は個々の点での相違はあるにしても、基本的には同じ問題意識によって動かされているように見える。三人の著作を比較対照しながら彼らの著作を検討してみることは、疎外の意識がかつてないほど広くまた深く浸透しているように見える今日、キリスト教が原罪と呼んだこの問題に何らかの光を当てることに資するのではないかと思われる。本書はそれについての一つの試みである。
まえがき
第一章 情念と理念
第二章 原罪
第三章 疎外と狂気
第四章 シンボル
第五章 三位一体
結び