ジョン・デューイの哲学の主題は、世界の究極的な真相の究明ではなく、現実世界における社会的な問題を高い確実性において解決するための行動の方法の考案にあった。しかし、不安定で流動的な現実の世界において、人間は自らの行動に普遍的・絶対的な確実性を保証することはできない。また、行動の方法を考案する思考は、本質的に奔放な機能であり、合理的な基準を先験的に設定して統制することはできない。人間にできることは、示唆された観念について反省すること、すなわち、過去の様々な事例と比較し、また、考案されている行動の帰結を十分に予想して行動に移ることである。いわば、自由に広く発想して、慎重に先々を見通した上で行動することである。このようにして、行動の方法について確実性を高める思考に知性が示される。本著では、デューイの経験主義哲学における、西欧近代哲学とは根本的に異なった知性観とそれに基づく思考論を描き出した。
【『教育学研究』第78巻 第1号(2011年3月)(日本教育学会発行)に書評掲載。評者:松下良平氏(金沢大学教授)】
序論
第1章 デューイの経験主義哲学の柱立て
第2章 知識と思考
第3章 示唆と反省
第4章 探求と思考
第5章 コミュニケーションと思考
結論