言語学は難しそうで実は難しくない。なぜなら言語の分析装置である理論が「広がり」と「深み」を見せているからだ。非変形生成文法の一つである自律モジュール文法(AMG)理論が、日本語の形態と統語の分析に対して有効であることをすでに証明してくれた著者。次はゴールとなる「意味」の文法に分け入る。日英語を対照し、主語繰り上げ、コントロール、数量詞、テンス、発話行為、モダリティの意味をつまびらかにする。言語の話し手と聞き手は、文を作ったりその意味を理解したりするのにさまざまな語を身につけている。語の発音、語形変化、文の構造内での使い方、語の意味…。語が連続すると規則性が現れ、規則性に縛られる。わたしたちが日常生活の中で自然に身につけた「語の森」の広がりと深み、そして神秘性さえもが、著者の分析によって次々と明らかにされる。著者渾身の集大成となる本書は、次の研究テーマである「コミュニケーションの現場における意味のやりとり」へとつながっていく。
早稲田大学理工学部数学科卒。シカゴ大学大学院言語学科博士課程修了。早稲田大学理工学術院教授。元早稲田大学理工学術院英語教育センター長。
まえがき
第1章 AMG概説
第1節 理論的枠組み
第2節 形態モジュール
第3節 統語モジュール
第4節 F/Aモジュール
第5節 E/Rモジュール
第6節 デフォルト対応
第7節 レキシコンと語彙項目エントリー
第8節 節の統語構造
第9節 無活用動詞の扱い
第10節 判定詞と無活用形容詞の扱い
第11節 後置詞の扱い
第12節 ゼロ代名詞の扱い
第13節 制約としての文法
第14節 望ましい文法理論
第2章 繰り上げの構造と意味
第1節 英語における主語への繰り上げ
第2節 日本語における主語への繰り上げ
第3節 英語における目的語への繰り上げ
第4節 日本語における目的語への繰り上げ
第5節 「思う」の受動態
第3章 コントロールの構造と意味
第1節 英語コントロール動詞
第2節 日本語コントロール動詞
第3節 部分的コントロール
第4節 コントローリー
第5節 主語コントロール動詞の受身
第6節 動詞以外のコントロール構造
第7節 コントローラー交替
第8節 コントロール構造と繰り上げ構造
第4章 数量詞の構造と意味
第1節 数量詞のF/A構造
第2節 複数の数量詞を含む名詞句
第3節 数量詞と束縛変数
第4節 集合項と集合変数
第5節 コンテクストとコンテクスト領域
第6節 英語における遊離数量詞
第7節 日本語における遊離数量詞
第8節 定義命題と分離先行詞
第5章 テンス性の構造と意味
第1節 分析の方針
第2節 英語におけるテンス性
第6章 発話行為の構造と意味
第1節 発話行為構造
第2節 間接発話行為
第3節 埋め込まれた遂行動詞
第4節 発話態度副詞
第5節 遂行節修飾PP
第7章 モダリティの構造と意味
第1節 B説モダリティ論
第2節 発話機能のモダリティ再考
第3節 副次的モダリティ再考
第4節 丁寧さ再考
第5節 事態めあてのモダリティ再考
第6節 叙法とモダリティ
第7節 まとめと展望
第8章 動詞ル形の多義性
第1節 ル形屈折接辞
第2節 動詞ル形の特徴付け
第3節 動詞ル形終止法の用法
第4節 ル形・タ形屈折接辞の特徴付け
第5節 多義性の発生
第6節 テンス性の発生
第7節 語形対立における無標形式
参照文献
索引
英文要旨