英国の初等・中等教育において取り組まれているシティズンシップ教育。移民の増加、多文化化、グローバル化といった社会状況の中で、子どもたちの生育環境の格差や人種主義は、民主主義社会を担う市民の育成、多様な文化的背景を持つ人びとの連帯という目的を持つ同教育の大きな障害となっている。政策分析と現地でのフィールド調査を通じ、英国における問題克服の取り組みを明らかにする。
近年、格差、移民の増加、多文化化、グローバル化が進む日本社会にとっても、英国の取り組みは人びとの社会的包摂のあり方を省みる重要な示唆となろう。
「文化的言語的に多様な子どもたちがマイノリティの立場におかれ、ともすれば目に見えない抑圧の中で自信を喪失してしまいそうになる日本の学校教育現場においても活用でき、その壁を克服するための実践のヒントがたくさんある」『異文化間教育』2015年42号(異文化間教育学会)に書評掲載。評者:櫻井千穂氏(大阪大学 日本学術振興会特別研究員 日本語教育)
「本書は多元化社会の教育論のすぐれた研究成果の一つとして、一読の価値を有するものである」『教育学研究』第82巻第3号(2015年9月刊)(日本教育学会)に書評掲載。評者:清田夏代氏(南山大学人文学部心理人間学科教授)
序 章 国民国家の変容とシティズンシップ教育
1 問題の所在
2 社会的包摂とシティズンシップ教育
第1章 社会的包摂/排除と実質的シティズンシップ
1 シティズンシップの概念の変容
2 近代国家におけるシティズンシップ教育
1 新自由主義と社会正義の混在
2 共同体主義的性格
3 実質的シティズンシップ
1 地位としてのシティズンシップ
2 帰属感としてのシティズンシップ
3 実践としてのシティズンシップ
4 まとめ――実質的側面が示唆するもの
第2章 イングランドのシティズンシップ教育
1 シティズンシップ教育の系譜
1 1970年以前――政治教育の不在
2 1970年代――政治的リテラシー教育運動の興隆
3 1980年代――ワールド・スタディーズと「新しい教育」
4 1988年〜1990年代――保守党政権とシティズンシップ教育
5 1997年〜2010年代――労働党政権による導入
2 労働党政権におけるシティズンシップ教育
1 枠組みと背景
2 実質的要素からみる排除性と包摂性
3 シティズンシップ教育がはらむ排除性
コラム1 イングランドの教育制度
第3章 シティズンシップ教育と社会的剥奪――3つの小学校の事例から
1 小学校におけるシティズンシップ教育
1 現場の裁量に委ねた導入
2 小学校での実施
2 ヨーク市の3つの小学校での調査から
1 調査の概要
2 3校の実施状況
3 教員はシティズンシップをどう捉えているのか
3 実践例の検討
1 C小学校――児童会と民主主義学習
2 A小学校――社会的剥奪度の高い地域の学校の取り組み
4 ニーズへの対応と実質的参加からの排除
コラム2 イングランドで教員になるには?
第4章 ナショナル・アイデンティティをめぐる問題
1 シティズンシップとナショナル・アイデンティティ
1 包摂的アイデンティティとしての英国人性
2 人種主義に対する懸念
3 コミュニティの多層性
2 J中等学校――ナショナル・アイデンティティの学習
1 シティズンシップ教育の概要
2 単元「英国人性」
3 多文化主義をめぐる葛藤
3 文化的多様性と学校の取り組み
コラム3 教員の社会的地位は
第5章 学校における民主主義
1 G小学校――子ども参加型の学校づくり
1 G小学校のシティズンシップ教育
2 「生徒の中の投資家」の取り組み
3 意義と可能性
2 L中等学校――包摂的な学びを目指して
1 L中等学校のシティズンシップ教育
2 参加を促進するネットワーク
3 民主的参加からの排除の克服
コラム4 教員の給与
第6章 包摂的シティズンシップ教育のアプローチ
1 排除性の克服
1 シティズンシップ教育の課題
2 ナショナル・アイデンティティ探求の意義と問題点
3 民主的参加へのストラテジー
2 包摂的シティズンシップ教育を目指して
1 アイデンティティの承認と排除
2 私的領域への介入と価値教育
3 排除性を乗り越えるために
コラム5 アシスタント教員
終 章 排除性の克服と社会的包摂
1 社会的排除を乗り越える方策
2 排除性克服の条件
3 シティズンシップ教育の可能性
4 おわりに
あとがき
引用文献一覧
索 引
英文要旨