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「卓越したジャーナリズム」――その卓越性はどこから生まれるのか。第一線で活躍するジャーナリストたちの問題意識と取材過程、作品、そして人となり、この三位一体の関係を明らかにすることで、その秘密に迫る。
本書の書評・関連記事が次の新聞で取り上げられました!
熊本日日新聞 2009年1月25日付
週間読書人 2008年12月5日号
●浮かび上がる鮮烈な視点
早稲田大学は二十一世紀に入り「石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞」を創設。新聞、テレビ、映像、出版などに携わる優れたジャーナリストを顕彰している。本書は、その受賞者らによる大学での講演十七編を収録したものである。
最前線のジャーナリストが報道現場のインサイドストーリーを語っているところに、本書の特徴がある。
例えば、朝日新聞の梶山天氏は、鹿児島県で起きた「志布志事件」に絡む調査報道をつまびらかにした。県警による公職選挙法違反の「でっち上げ」を、事実の積み重ねで暴いていく過程は、ジャーナリストの粘りと意気込みを感じさせる。
熊本県出身の映画プロデューサー、山上徹二郎氏は、放送局幹部に映像の一部カットを迫られ、拒否した体験を報告。「何かを禁止することを許してしまうと、次にはより大きな禁止に繋がる」と警鐘を鳴らす。
熊本日日新聞は連載「地方発 憲法を考える」で二〇〇六年の早稲田ジャーナリズム大賞を受けた。憲法改正論議が高まるなかで、憲法を単に規範的な角度からではなく、地域住民の生活のなかに探るという視点からの報道が高く評価された。その企画立案を手掛けた山口和也氏の講演では、イラク派遣を控えた自衛隊員の肉声に迫るため駐屯地に通い詰めた記者たちの奮闘ぶりも紹介している。
この講演で山口氏は、自らの取材過程における数々の興味深い問題を摘出している。その一つが、建設談合を暴露した体験だ。そのスクープの決め手となったのが、談合現場への”潜入取材”だったことに驚く。談合の事前情報入手から、細心の注意で会場に踏み込み、事実を生々しく白日にさらすまでの過程が緊迫感を持って語られ、手に汗を握る。
本書を通読すると、なぜ、どのようにして取材を貫徹したか、その鮮烈な視点と取材過程の詳細が浮かび上がる。これは単に興味深いというばかりでなく、まことに啓発的な本である。ジャーナリズムに関心を寄せる人々にぜひ勧めたい一冊だ。 評・竹内重年(弁護士・法学博士)
(出典:「熊本日日新聞2009年1月25日付」)
第1部
水俣病報道・取材を通して
進藤卓也[西日本新聞]
大きなテーマを細かな網目ですくいとる
「談合」「水俣病問題」「憲法」 山口和也[熊本日日新聞]
当事者の切実な声と姿から学ぶ
吉田敏浩[ジャーナリスト]
誰に向けて書く?
地方紙記者の可能性 依光隆明[高知新聞]
調査報道「志布志事件」の舞台裏
梶山 天[朝日新聞]
社会を変えたキャンぺーン報道
「お産SOS」とスパイクタイヤの追放 練生川雅志[河北新報]
アジェンダ・セッティング型の調査報道
「偽装請負キャンペーン」をめぐって 市川誠一[朝日新聞]
インタビューの方法「よく聞き、よく見る」のために
野村 進[ノンフィクション・ライター]
第2部
映画『ガーダ―パレスチナの詩』ができるまで
古居みずえ[ジャーナリスト]
「客観・公正」報道で社会は変わるのか?
小児難病「ムコ多糖症」を取材して 湯浅次郎[日本テレビ]
“孤独死”誰にも看取られない死を追う
松木秀文[NHK]
パレスチナ報道で何が伝えられないのか
土井敏郎[映像ジャーナリスト]
報道が国家権力に影響を及ぼすとき中国残留日本人の帰国支援事業の実態に迫る
竹下通人[RKB毎日放送]
TVによる「調査報道」「同和行政」報道に至るまで
東田尚巳[毎日放送]
現代史を検証する日中戦争から靖国問題まで
東野 真[NHK]
戦争報道
なぜ戦場取材なのか 野中章弘[アジアプレス]
報道とドキュメンタリー
「水俣」から「靖国」まで 山上徹二郎[映画プロデューサー]