中国の正統な歴史書である「正史」は、いつ、どのようにして、「儒教」のくびきを脱したのか。司馬遷の『史記』はそもそも思想を語る書だった。しかし、やがて、史書として認識される。「三国志」研究の第一人者である著者は、「正史」と「儒教」の抜き差しならない関係を、時には推理小説のようにひもとき、またある時は大河小説のように活写していく。事実を記すだけでは収まらない中国史学が、国家の正統性や勧善懲悪の考えを取り込みながら、独自性と独創性を秘めることを大胆に考察する本書。西欧の近代歴史学とは異なる歴史学の位相、「ワタナベ 史学」の到達点がここにある!!
中国史学者。早稲田大学理事・文学学術院教授。1962年生まれ。東京都出身。文学博士。専攻は「古典中国」学。著書に『後漢国家の支配と儒教』(雄山閣出版)『三国政権の構造と「名士」』(汲古書院)『三国志よりみた邪馬台国』(同)『「三国志」の政治と思想』(講談社選書メチエ)『儒教と中国─「二千年の正統思想」の起源』(講談社選書メチエ)『三国志の舞台』(山川出版社)『関羽─神になった「三国志」の英雄』(筑摩選書)『三国志─演義から正史、そして史実へ』(中公新書)など。
はじめに
第一章 『史記』と『漢書』――『春秋』と『尚書』の継承
1 司馬遷の『春秋』観
2 「史の記」と『春秋』
3 『漢書』と『尚書』
4 『漢書』と「古典中国」
第二章 『三国志』と『続漢書』――正統の所在と鑑としての歴史
1 二つの予言と蜀学
2 西晉の正統性と倭人伝
3 鑑としての歴史
4 「古典中国」を鑑に
第三章 「史」の宣揚と正統――『春秋左氏経伝集解』と『漢晉春秋』
1 杜預の左伝解釈
2 左伝体の尊重
3 史論と蜀漢の正統
4 正と統
第四章 「史」の自立と「記言の体」――『三国志』裴松之注
1 史書の濫造
2 史学独自の方法論
3 物語と歴史
4 煩悶する裴松之
第五章 史学と文学――范曄と劉勰
1 史書の文学性
2 范曄の文章論と李賢注
3 劉勰の文学論
4 劉勰の史学論
第六章 正史の成立――史学と権力
1 沈約の南朝意識
2 皇帝権力と史書
3 御撰『晉書』の特徴
4 『隋書』経籍志の史学論
第七章 史学の権威と研究法――唐代の史書と『史通』
1 「南北史」の大一統
2 『史記』三家注
3 『史通』の特徴
4 劉知幾の史学研究法
終 章 中国史学の展開と儒教
さらに深く知りたい人のために
あとがき